機能性ディスペプシア
機能性ディスペプシア
「みぞおちが痛む」「少し食べただけでお腹がいっぱいになる」「胃もたれがずっと続いている」……。このようなつらい胃の症状があるにもかかわらず、病院で胃カメラ(上部消化管内視鏡)などの検査をしても「異常なし」と言われたことはないでしょうか。
このように、胃がんや胃潰瘍(いかいよう)といった目に見える病気(器質的疾患)がないにもかかわらず、胃の働き(機能)が低下することで慢性的な不調が続く病気のことを「機能性ディスペプシア(Functional Dyspepsia: FD)」と呼びます。
かつては「神経性胃炎」や「慢性胃炎」などと片付けられがちでしたが、現在では医療の世界で明確な基準を持つひとつの独立した疾患として認められています。日本の成人の中でもおよそ10〜20%の人にみられる、決して珍しくない現代病です。
ディスペプシアとは、ギリシャ語に由来する医学用語で「消化不良」や「胃の不快感」を意味します。診断基準(Rome IV基準)では、主に以下の4つの代表的な症状が3か月以上続いている場合に機能性ディスペプシアと診断されます。
症状の出方によって、大きく次の2つのタイプに分類されます。
食事をきっかけに症状が出るタイプです。
食後の異常な胃もたれ(Postprandial fullness):食べたものがいつまでも胃に残っているような、重苦しい不快感。
早期飽満感(Early satiety):食事を始めてすぐ、大して食べていないのに胃がパンパンになってそれ以上食べられなくなる状態。
食事に関係なく、または空腹時などにみぞおち周辺に不調が出るタイプです。
心窩部痛(Upper abdominal pain):みぞおちのあたりに感じる、はっきりとした痛み。
心窩部灼熱感(Stomach burning):みぞおちのあたりがジリジリ、カッカと熱く焼けるような不快感。
「検査で異常がない」というのは、胃の粘膜に傷や腫瘍がないという意味であり、「胃の動きや感覚」には明らかな異常が起きています。 主な原因は以下の3つが複雑に絡み合っていると考えられています。
通常、食べ物が胃に入ってくると、胃の上部が柔らかく広がって食べ物を一時的に貯える仕組みになっています(適応性弛緩)。しかし、この広がりが悪いと、すぐに胃が満杯になって早期飽満感が起こります。 また、胃の筋肉がうまく波打たず、十二指腸へ食べ物を送り出すスピードが遅くなると、食べ物がずっと胃に残り、強い胃もたれを引き起こします。
胃の神経が過敏になっている状態です。健康な人であれば何とも感じない少量の胃酸や、引き伸ばされる刺激(食べ物の重み)に対して胃が過剰に反応し、脳へ「痛み」や「不快感」のシグナルを送ってしまいます。これにより、みぞおちの痛みや灼熱感が生まれます。
胃腸は「第二の脳」と呼ばれるほど、自律神経を介して脳と深くつながっています(脳腸相関:のうちょうそうかん)。 仕事や人間関係のストレス、不安、睡眠不足などが重なると、自律神経のバランスが崩れます。自律神経は胃の動きをコントロールしているため、脳がストレスを感じると、ダイレクトに胃の運動障害や知覚過敏を引き起こすのです。
その他の要因 風邪や感染性胃腸炎にかかった後、胃の粘膜にわずかな炎症が残り、それが引き金となって機能性ディスペプシアを発症するケース(感染後機能性ディスペプシア)や、ピロリ菌の感染、不規則な食生活、喫煙・飲酒なども関係していると言われています。
診断にはまず胃内視鏡検査・腹部エコーが重要です。胃がんや胃潰瘍・胆石・膵疾患などの器質的疾患を除外したうえで、症状が持続している場合にFDと診断されます。内視鏡で異常がないと「問題なし」と思われがちですが、FDは“機能の異常”であり、検査で見えない部分に原因があるため、症状が続く場合は適切な対応が必要です。
症状のタイプに合わせて、以下のようなお薬が処方されます。
酸分泌抑制薬(H2ブロッカーやPPI、P-CAB):胃酸の刺激を抑え、みぞおちの痛みや灼熱感を和らげます。
消化管運動機能改善薬(アコチアミドなど):胃の動きを活発にしたり、食べ物が入ってきたときに胃を広げやすくして、胃もたれや早期飽満感を改善します。
漢方薬:体質や症状に合わせて「六君子湯(りっくんしとう)」などがよく使われ、胃の排出機能を高める効果が期待できます。
抗不安薬・抗うつ薬:ストレスや不安が強く関わっている場合、脳の神経の過剰な興奮を鎮め、胃の知覚過敏を抑えるために少量使われることがあります。
胃に優しい生活を心がけるだけでも、症状が大きく和らぐことがあります。
食事の工夫:一度にたくさん食べず、1日4〜5回に小分けにして食べる。脂っこいもの、辛いもの、カフェインやアルコールなどの刺激物を控える。よく噛んで食べる。
睡眠と休息:自律神経を整えるため、十分な睡眠をとり、リラックスできる時間を作る。
適度な運動:ウォーキングなどの軽い有酸素運動は、胃腸の動きを活性化させ、ストレス解消にもつながります。
機能性ディスペプシアは、命に関わる大きな病気ではありません。しかし、「常に胃がすっきりしない」「美味しくご飯が食べられない」という状態は、生活の質(QOL)を大きく低下させます。
「気のせい」「ストレスのせい」と我慢したり諦めたりせず、まずは消化器内科を受診し、他の隠れた病気(胃がんや潰瘍など)がないかを確認した上で、ご自身の症状に合った適切な治療を始めていくことが大切です。
TOP